六 の 座 敷




(四)



 「こうすりゃ、もっと気持ちがいいと思わないかぇ」

常陸屋はぎゅっと自身を乳房ではさみ、再度激しく腰を使った。
 「―――だ、旦那……」
常陸屋の初めての動きに、さすがにおとよは驚き、自分の乳房にはさまれた常陸屋を見つめた。
 おとよの目の前で、真っ赤に充血した常陸屋自身が乳房の間に見え隠れした。
 「お、おとよっ」
常陸屋が急に苦しげに叫んだ。
 とたん……、
 まるで『ぴゅ』と、音がするかの様に常陸屋の精がおとよの顔に跳んだ。
 「ひっ……」
 「はっ……はっ……」
常陸屋は息を切らせ、最後の精が出尽くすまで、おとよの乳房の上で腰を振った。
 一方おとよは、常陸屋の精を顔中に受けて、初めてのことに動けずにいた。
 場慣れした女郎ではあったが、度重なる常陸屋の行動には驚かされてばかりいた。

 常陸屋の行動は驚くことが多かった。
 おとよを『しばる』ようにしたのは常陸屋だった。
 おとよの髪を結わないように言いつけたのも常陸屋だった。
 おとよの豊な毛を楽しむのも常陸屋だった。
 そして、此度の行動。
 常陸屋は、おとよの快楽を根本から考え直させた。
 今までの客は、まず、酒で酔い、次に一方的に快楽をむさぼり、簡単に精を吐き出させてしまう。
 流れ作業の様な日常であったが、常陸屋がおとよの座敷に現れるようになってからは違った。
 毎度毎度、常陸屋は新たな楽しみを見出してくれた。
 単調な日々を変えてくれたのは常陸屋だった。

 常陸屋は、動けずにいるおとよの顔に飛び散った精を指で広げ、おとよの顔に塗りこめた。
 おとよは愛しげに、その常陸屋の指を口に含んだ。
 「―――どうだい、おとよ。こんなことも楽しいとは思わないかい」
 「旦那……」
 どぎつかった紅も剥げ落ちてしまい、その口の周りには常陸屋の半透明の精がこびりついていた。
 「ねえ、旦那……」
 「どうしたい」
 「もう一回、やって下さいよ。あたし、もう一度見てみたいんですよ、旦那の……」
 「また今のをかい」
 「ええ……」
常陸屋は苦笑すると、
 「そりゃおとよ、ずいぶんと酷なことを言ってくれるねぇ。私はもう四十もすぎた男だよ。そんなに簡単に
次から次へと繰り返すことはできないよ」
 「でもぉ……」
おとよはつまらなそうに、口をとがらした。
 黒く艶やかな髪を体中にまとったおとよは美しく、細い体には不似合いなほど豊かな乳房が揺れて
いた。
 「でも、旦那。あたしはまだ満足してないんですよ。旦那だけ果てちまって、あたしゃ、おあずけですか
い」
 「まぁまぁ、そんなことは言わないでさ」
 「いやいや、旦那。あたしももっと気持ちよくさせて下さいよ。でないと、今日は帰さないんだから」
 「これ、おとよ。そんなことを言わないでおくれよ」
常陸屋は、何を言われてもおとよがかわいいらしく、いやな顔ひとつせずおとよのわがままを笑って聞い
ていた。
 「ね、旦那。もう一回。もう一回やって下さいよ」
 「これこれ、おとよ。もう少し休ませてくれないと。私だって若くはないんだよ」
 「旦那の意地悪」
おとよはぷいとそっぽを向くと、枕元に散っている着物で自分の顔をぬぐった。
 「よし、おとよ。今日は泊まっていこう。ね。だから機嫌を直しておくれよ」
 「本当に」
 「ああ、今日は泊まっていくよ」
 「嬉しいっ」
おとよは常陸屋にぶつかる様に抱きつくと、常陸屋の口を吸った。
 「―――こ、これ、おとよ。苦しいじゃないかぃ」
 「だって嬉しいんですもん」
 「まったく、お前って女は……」
常陸屋もまんざらではないらしく、ぴん、と、指の先でおとよの乳首を軽くはじくと、
 「さて、湯でも使いましょうかね。二人とも汗だくだよ」
 「はいはい」
 「それから酒をつけておくれ」
 「はいはい」
おとよ楽しそうに常陸屋に浴衣を着せかけ、自分も浴衣をはおり
 「ね、旦那」
 「どうしたい」
常陸屋の耳元で小さくつぶやいた。
 「湯から上がったら、駒田屋のうなぎでも食べましょうよ」
 「あ、ああ……」
おとよは尚もにこにこして言った。
 「一番高いやつを食べましょうね。そうすれば、旦那も早く『できる』ようになるでしょうしね」
 「あ、ああ……」
常陸屋は小さなため息をついた。


 「―――おや、常陸屋さん。いらっしゃいまし」
 「ああ、おかみ」
ちとせは、湯殿に向かう常陸屋とおとよに出合った。
 「おかみさん。すみませんけど、駒田屋の特上うなぎ、注文しといて下さいな」
 「特上うなぎね。判ったよ」
 「それと、常陸屋さん。今日は泊まって行くって」
 「そうかい。そりゃ、よかった。おとよ、丁寧にお相手をするんだよ」
おとよはくすくすと笑いながら常陸屋の手をぐいと引いて、湯殿に向かった。
 心なしか常陸屋の顔色は悪かったが、おとよは楽しげだったので、ちとせは何も言わず台所に
向かった。

 はて、常陸屋さん。今日はずいぶんと疲れていなさる様だったけど。

 ちょいと気にはなったが、うなぎを注文するくらいだもの、きっと、おとよを可愛がって下さるんだ
ろう、ちとせは安心した。
 一方、常陸屋はおとよに背を流してもらいながら、考えていた。


 さて、うなぎを食べたって、そう何度も続けられるかねぇ。
 私ゃ、もう若くないんだよ、おとよ。
 こりゃ、大変なことをしちまったようだねぇ。


 はぁ、と、小さくもれる常陸屋のため息も、嬉しげなおとよの耳には入らなかった。







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