行  灯





(三)



 「―――なぁ、おかみ」
 「なんです、佐伯様」
 「わしは罪を犯した」
 「はて。急に何をおっしゃいますことやら」
ちとせは佐伯の杯に酒を満たした。
 佐伯はくいっとあおると、そのまま杯を置いた。
 「わしはな、おかみ」
 「はい」
 「―――姉上を愛しておった」
 「そりゃ……」
 酔ってろれつの回らなくなりつつある佐伯の言葉は、それほどちとせを驚かせはしなかった。
 ちとせ屋に来る客は特別な趣向の持ち主が多かったし、佐伯の姉は美しかったと聞いたことがあった。
 「姉として愛していたのではない。女として愛しておったのだ」
 「……」
 「驚いたかね」
 「―――いいえ」
佐伯の問いに、ちとせは小さく答えた。
 「そうか。驚かんか」
 「はい。うちに来るお客様にもそういった好みの方がいらっしゃいます。佐伯様だけではございません」
 「本当かね」
 「ええ」
ちとせは置いたさかずきをまた佐伯の手の中に戻すと、
 「佐伯様。うちの女郎の中にはそういったことが得意な者もおりますよ。きっと寂しさをまぎらわせて
くれると思いますがね」
 「おかみ……」
 「佐伯様がお姉様を愛してらっしたのは間違いでも悪いことでもございません。ただ愛し方が特別だった
ということでしょうかねぇ」
ちとせのついだ酒をあおるように二度、三度と飲み込んだ佐伯は、ふとつぶやいた。

 「―――丈太郎は、あれは、わしに似ておる」
 「そりゃ、ご子息ですもの。似ているのは当たり前でございます」
 「違う。違うのだ、おかみ」
 「と、申しますと……」
 「違うのだ、おかみ……。丈太郎の目はわしと同じなのだ」
 「ですから……」
 「丈太郎の目は、わしと同じだ。りつのことを女と見ている」
 「はて……」
佐伯の言葉にちとせは酌をする手を止めた。

 「丈太郎はわしと姉上の子なのだ」

佐伯の言葉はちとせの思考を止めた。
 「りつはわしと妻の子であるが、丈太郎はわしと姉の間にできた子なのだ。そして、わしと同じで、
実の姉を愛しておる。わしにはそれが判る」
 「何と……」
佐伯は吐き捨てるかのように言葉を出した。
 ちとせの頭の中で、佐伯の言葉が渦を巻いていた。
 「丈太郎のりつを見る目はわしが姉上を見いてたそれと同じじゃ。丈太郎がりつを見つめている
目が、わしが姉上を見ていた目とそっくりなのじゃ」
 「………」
ちとせは言葉を失った。


 丈太郎様は近親の契りの末にできた子。 

 佐伯様と佐伯様の実の姉の子。 
 

 「―――血は争えぬ」
 「はぁ……」
 「おかみ、わしを軽蔑したかね」
 「いえ。でも驚きしまた」
 「さようか」
 「―――お酒をお持ちしましょうかね」
 「そうしてもらおうか。今日は歌はできぬが、酒はすすむ」
 「秋の夜は長いですからねぇ」
 

 ちとせはちょいと、と廊下の向こうの女中に声をかけた。



 

 「―――丈太郎、丈太郎、丈太郎……」
 りつの切れ切れな声が遠くから聞こえていた。
 丈太郎は萎えることもなく、一度もりつから抜き出さずに三度も果てた。
 すでに四度目の波が来ていた。
 「姉上、姉上……」
 生き物のように自分自身にまとわりつくりつの内壁を体全体で感じた。
 りつの蜜と自分の吐いた精で敷物はすっかり濡れていた。
 いつの間にか丈太郎は下になり、りつが丈太郎にまたがっている。丈太郎の下半身は二人の
体液でてらてらと輝いていた。

 「―――丈太郎。丈太郎」
 「姉上……」
丈太郎はりつの乳房を強く絞り上げた。
 りつの体にはすでにいくつもの吸い痕があった。
 自分の中で激しく暴れる丈太郎をいとおしく感じ、そして狂おしいほどの熱を感じつつ、りつは
すでに夢の中にいた。
 「丈太郎、私の中に……、私の中に全てを……」
 「あ、姉上……」
 「あああああ……」
りつも何度目かの気をやり、そして今まで以上の力で丈太郎を締め付けた。
 その力に、丈太郎は全てを忘れた。
 その快楽に、丈太郎は全てを吐き出した。


 ぽっかりと開いたりつの蜜壷からは、どろりと白濁した精が流れ出した。


 ぼんやりとした行灯の灯りの下、丈太郎はそれだけはしっかりと見えた。






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