七 の 座 敷



(六)



 おしのの手際を目の当たりにした今も、ちとせは何が何だか判らなかった。
 一体どの様な手を使って斉藤を果てさせたのか。
 おしのの体の影になり、斉藤に施されている手管は見えやしなかったが、それでもおしのの手の
動きと口の動きは普通ではないのであろう。
 女郎慣れした斉藤があっさりと果てたのだ。
 しばらくすると斉藤は意識を失ったかのように眠りに付き、おしのはえり元を正すとそっと座敷を
出た。どうやら風呂に向かうらしい。
 ちとせは身を小さくすると、おしのが湯船に浸かるのを待った。
 ちとせがいる小屋はちょうど風呂場の裏にあたり、湯の加減を見るための釜があった。
 そのまま身をかがめていると思ったよりも激しい水音がして、壁に湯がぶち当たった。
 思わず身を引いたちとせであったが、そのまま風呂場の気配に耳をすませた。


 「―――まい……、―――ごまい……」


 おしのの声だ
 かすかに聞こえるおしのの声。
 その声は異様にかすれており、まるで六十の老婆の様にしわがれていた。
 ちとせはそっと身を起こし、窓の隙間から中を覗いた。


 「―――なっ……」


 思わず出かかった声を押しとどめ、ちとせはぱっと身を隠した。
 幸いにもおしのには気がつかれなかったようだが、それでもずいぶんと危険なまねをしたものだ。
 ちとせは自分の目に焼き付いたおしのの体を思い起こした。
 湯船のふちに腰をかけ、じぶんのふとももにある『うろこ』。そう、まるでヘビの『うろこ』の様に青
黒く光り輝く皮をはいでいた。
 初めての夜、おしのの体を見たときにはそんなものは無かった。と、すると、ここ二日の間にあの
『うろこ』がはえてきたのか。
 いやいや。そんな訳はない。
 斉藤も玉庵も何も言ってはいなかった。
 おしのの体については一言も言わなかった。 
 そもそも、二人の男の前でおしのは自分の裸体をさらけ出したのか。
 いや、そうではあるまい。
 今だってじゅばんはを身にまとったままで斉藤の相手をしていたではないか。
 判らない。
 判らない。
 ちとせは頭の中で今までのことを思い起こした。
 なぜおしのがこのちとせ屋にやってきたのか。
 なぜ客を取りたがったのか。
 どのようにして男を喜ばせる術を身に付けたのか。
 が、その様なちとせの思いも吹き飛ばすかの様な勢いで、またもや風呂の湯が壁にぶち当たった。


 「―――おかみさん。何か様ですかぃ」


 おしののしわがれた声にちとせはぞっとした。







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