七 の 座 敷



(四)



 その夜、玉庵が帰る時を見計らって、ちとせはおしのの座敷前で待っていた。
 相変わらずおしのの座敷からは物音がしなかったが、それでも人の気配はあった。
 しばらくすると玉庵の声が聞こえた。
 「―――ではまた来るぞ」
その声とともに玉庵は座敷から出てきた。
 「おお、おかみ」
玉庵の見た目は斉藤ほどはひどくなかったが、それでも普段は力強い歩みが今日に限って緩く
感じられた。
 「玉庵先生。いかがでしたかね」
ちとせは探るかの様に玉庵に尋ねた。
 「おかみ。明日のこの時間はおしのに客は入っているのかね」
 「いいえ、今のところは」
 「すまんが明日もまた来る。おしのに客はとらせるなよ」
 「はい……」
またもやおしのに客がついた。
 しかも明日の同じ時間に来る。
 一体おしのはどの様にして客をもてなしているのか。
 ちとせの心は不安でいっぱいになった。


 もしあへんなどで客を眠らせているのなら大変だ。今すぐにやめてもらおう。
 いや、あへんであれば玉庵先生が気が付くはずだ。
 はて、はて、はて……。


 それでも満足げに帰っていく玉庵の後ろ姿を見て、金の計算をしているのも確かであった。
 「―――おかみさん」
ふと気が付くと、自分のすぐ後ろにおしのが立っていた。
 ぎょっとして振り向いたちとせではあったが、つとめてさりげなくおしのを見やった。
 「おしの、玉庵先生はどうだった」
 「はい。とてもよくしてもらいました」
 「そうかい。小遣いはもらえたかい」
 「はい。三両ほど」
 「さ、三両っ」
またもやちとせはぎょっとした。
 ゆうべの五両に引き続き、おしのは三両の大金を手に入れた。


 一体この女は……。


 乳や腰にはりはあったが、それでも男を楽しませる技術を持っている様には見えなかった。
目だけはきらきらと輝いていたが、それだけであった。決してすれ違って振り向くような美人では
なかったし、色気もなかった。
 ちとせはひやりとしたものを感じはじめたが、それでも表情を変えずにおしのを見ていた。
 「夕のご膳を運ばせよう。それとも湯を使うかい」
 「はい。できればお風呂に入りたいと思います」
 「そうかい。じゃあ風呂からあがったらおかつに声をかけたらいいよ」
 「はい」
 「そうそう、六つ(午後六時)の頃には斉藤様がいらっしゃる。それまで少しは休んでおいで」
 「はい」
そう言うと、おしのは足音もたてずに湯殿に向かった。
 ちとせの頭の中は何がなにやら判らず、さりとておしのを問い詰めることもできずもんもんと
していた。


 さて。今晩は風呂の裏にでもかくれて中の様子を見てみようかねぇ。







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