六 の 座 敷



 いらっしゃいまし。
 ちとせ屋の主(あるじ)、ちとせでございます。
 六の座敷は『おとよ』の座敷にございます。
 ごゆるりとお楽しみ下さいませ。



(一)



 おとよはいつもの様に髪を洗うと、そのまま結い上げもせずに自分の座敷に戻った。
 他の遊女は、江戸で流行っているつぶし島田に髪を結い上げていたが、おとよはいつも洗い髪であ
った。
 しかもそのツヤときたら、ちとせ屋ばかりではなく、街中の女たちでも右に出る者はいない。
 もちろん常連の常陸屋(ひたちや)の旦那からもらう、南蛮渡りの植物の種からとる油をしっかりと塗り
こめてはいたが、おとよの髪はそんなことをしなくとも誰もが見とれる髪だった。
 髪は尻の下まで届き、常連の旦那方の下であられもない声を上げているおとよの布団の上で、妖し
げな蛇の様にのたうっていた。

 いつの頃からかおとよは『くちなわのおとよ』と呼ばれ、ちとせ屋でもちょいと人気の女郎だった。

 その日も常陸屋の旦那からもらった油を髪に塗りこめ、大好きな酒をちびちびと飲んでいるところに、
客が来たと下働きの女が言った。
 おとよははだけたえりもとをちょいと直すと、
 「―――酒を持ってきておくれ」
と、だけ言い、行灯の明かりをほんの少し小さくした。
 「ごめんなさいよ」
すぐに顔なじみの常陸屋の旦那が座敷に入ってきた。
 「いらっしゃいまし。旦那、待ってましたよ」
そう言ったおとよはさらり、と、着物を肩から落とした。
 「ほうほう、おとよ。今日も髪の手入れはしていたようだねぇ。それより……」
 「旦那。旦那が好きなのはあたしの髪じゃなく、ねぇ」
にやりと笑うと、おとよは旦那に手を差し伸べた。
 常陸屋はぷるぷると震える腕をおとよに差し伸べると、そのままかぶりつくかの様におとよの胸に飛び
ついた。
 「あら、旦那。まったく、気が早いんだから……」
そう言うおとよの胸は、まるで大きな瓜がくっついている様だった。
 おとよの顔よりも大きな二つの乳房は、ぷるんぷるんと大きく震え、常陸屋の顔を挟み込んでいた。
 「ふはは。おとよ、これおとよ。苦しいじゃないかえ。ふははは。おまえの乳は私の顔よりも大きいよ」
 「あれ、旦那。くすぐったいじゃないのさ。んふふふ……」
常陸屋の顔を両側から挟みこむようにして乳房をつかんだおとよは、わざと常陸屋の顔に押し付けた。
 「ふはは、はは。柔らかいのう。まるでつきたてのもちの様じゃ。はは。どれ、味見、味見……」
 「あれ、旦那。くすぐったいよぅ。あは、あははは」
 「はて、おとよ。このかたい、こりこりとしたつぶはなんだね。まるで梅の種のようだが……。どれ、こいつ
も味見をしてみようかねぇ」
 「いやだよ、旦那。―――っん……。んはっ……」
常陸屋は大きな乳房の突端にある小さな乳首を見つけると、指でかるくつまみ、そのまま舌で転がし
た。とたんおとよは白いのどをのけぞらせ、さらに常陸屋の顔に自分の乳房を押し付けた。
 「―――ひんっ……」
 「どうしたい、おとよ。うっすらと汗をかいている様じゃないかぇ。具合でも悪いのかい」
常陸屋の指が止まることを知らず、おとよの乳首をこねまわす。
 「はれ、おとよ。息も苦しそうだね。大丈夫かね」
常陸屋の舌がおとよの乳首を吸い上げる。
 「―――だ、旦那……」
 「おやおや、おとよ。そんな潤んだ目をしないでおくれよ。どれ、下はどうなっているのかねぇ」
白い肌をほんのりと上気させ、ぴんと立ち上がった乳首を常陸屋の顔に押し付けたおとよは、もう四十
を過ぎた常陸屋の指の動きに身を任せていた。
 常陸屋は湯上りのおとよの髪の香りを鼻いっぱいにかぐと、今度は腰で止まっていたじゅばんをはらり
と取り去った。
 「ふふ、ふふふ。おとよ。どうしたもんだか、ふとももまで濡れているよ」
 「だ、旦那……」
 「それに……」
常陸屋はふと手の動きを止めると、おとよをゆっくりと横たわらせ、体に巻きついた最後の布きれを取り
払い、黒々と輝くおとよの体の中心を見つめた。
 おとよの肌はきめも細かく雪の様に白い。もっとも今は、常陸屋の指技でほんのりと上気していたが、
透き通る様な肌の持ち主だった。
 しかしそれとは対照的に、おとよの長い髪はくちなわ(ヘビ)のようにうぞうぞとうごめき、体の中心にあ
る茂みはあっと驚くほど濃かった。
 その茂みにはとろりと露がまとわりつき、ふとももの内側にべっとりとはりついていた。
 「―――おとよ、おまえのここはなんといやらしいのだろうねぇ。ふふ。髪もここも……」
常陸屋はおとよの茂みに指を絡めた。
 「んん……」
 「それに、ここも女の匂いがぷんぷんしてくるよ」
さらに常陸屋は、おとよの脇に顔を寄せた。
 なんとおとよの脇は黒々と毛が密生しており、それを見せ付けるかの様に片腕を大きく上げたおとよ
は、もう片方の手で乳房をつかみ、がばと足を広げた。
 「ふはははは。こんなにいやらしくみだらな女は初めてだよ。ふはは。おもしろい、おもしろいよ、おとよ」
常陸屋はぱっくりと開いたおとよの股間に顔を寄せ、指でごわごわとした毛をかき分けた。
 「ふふん。おとよ。おまえの観音さんが見えやしない。そんなに見せたくないのかぇ」
 「だっ……」
 「これおとよ。尻の穴まで毛でかくれて見えやしない。そんなに私に見せたくないのかぇ」
 「だ、旦那……」
 乳房を吸われた時には、おとよの体は男を受け入れる全てが整っていた。しかし、常陸屋はすぐに
おとよに乗りかかりはせず、じんわりじんわりと攻めた。攻め続けた。
 「はて、おとよ。お前はどうも悪いくせがあるようだねぇ。ふむ。こりゃ、一度……」
 「だ、旦那……」
 「こんなにだらしのない女は一度『おしおき』が必要だねぇ。どれ、こんなくせの悪い手は、使えない様
にしばってしまおうか」
言うが早いか常陸屋は、おとよの腕を背中に回し手元にあった腰ひもでしばりつけた。
 「あ、あ……」
 「これおとよ。これはいけないことをした『おしおき』なんだよ。だまって言うとおりにしなさいな」
 「だ、旦那……」


 布団の上でとぐろを巻くおとよの髪は、何をされても艶やかに輝いていた。







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