四 の 座 敷



 いらっしゃいまし。
 ちとせ屋の主(あるじ)、ちとせでございます。
 四の座敷は『かよ』の座敷にございます。
 ごゆるりとお楽しみ下さいませ。



(一)



 「―――で、あんたが廣田屋(ひろたや)の若旦那、徳之助さんかい」
 「は、はい……」
かよは品定めをする様に徳之助を見た。
 歳は二十歳にちと足りぬくらいか。細面の顔の中には、これまた細い目が糸の様にのびて
おり、鼻は低く唇は薄く……。一言で言うと目立たぬ容貌の男であった。
 一方かよはきつい顔立ちだったが目はぱっちりとしており、鼻はやや上を向いてはいたが、
きゅっと引き結んだ唇は意思の強さを思わせる女だった。
 歳は三十の坂をいくつか過ぎたあたりであろう。濃くひいた紅の色も艶々しく年増の色気が
ぷんぷんと匂っていた。


 かよは以前、賭場でサイコロを振っていたが、振るよりも自分が金をかける方に入れ込んで
しまい、借りた金でにっちもさっちもいかなくなった。そこへちとせ屋のおかみが声をかけた。
 「うちで働くならここの勘定は、あたしが払ってやるよ」
かよにとって、この申し出は渡りに船だった。
 昔は茶屋つとめもしてきた女だった。食べる物と寝る場所さえあれば生きていける女であっ
たし、自分の体を売ることにも慣れていた。
 それに、ちとせ屋はこの街でも有名な女郎屋だった。給金もよく、身請けされた女も数多く
いたとか。
 かよは一も二もなく、この申し出を受けた。
 それからもう五年以上の月日が流れていた。
 すでにかよは、このちとせ屋の名物女郎になっていた。
 ちとせに先見の明があるかどうかはともかく、かよの人気はすさまじかった。
 して、その理由はというと……。


 「―――ふん。で、あんたはここに何をしに来たんだい」
 「いや、その……」
 「女を買いに来たんだろう。だったらとっとと着物を脱ぎな」
 「は、はぁ……」
 「何をぐずぐずしてんだい」
かよは徳之助の帯を引くと、くるりと解いてしまった。
 着物の前がはだけてしまった徳之助は、真っ赤な顔で前をかきあわせ恥ずかしそうにかよ
を見た。
 「なんだい、なんだい。男のくせに」
 「………」
 「―――もしかして、あんた」
 「は、はぁ……」
 「初めてなのかい」
かよのあけすけな物言いに徳之助はさらに真っ赤になったが、それでも小さくこくんとうなずい
た。
 「ふぅん……」
何を思ったのか、徳之助の返事にかよはにやりと笑うと
 「あたしは初物が好きでねぇ。どれ……、お味見でもしてみようかねぇ」
そう言うと、かよはするりと自分の着物を落とした。
 「あ……」
 「どうだい、みごとだろう」
かよの姿を見た徳之助は、あいた口が塞がらなかった。
 かよは自分の姿を惜しげもなくさらした。
 そして、その背には……

 みごとな龍の彫り物があった。

 「―――女だてらに龍の彫り物なんざ、ちと見れないよ」
 「昇り龍……」
 「そう、昇り龍のかよっていやぁ、ちょいとは有名だと思うけど」
 「は、はぁ……」
 「あんたもこれが見たくてあたしんとこに来たんだろ。だったら着物を脱ぎなよ。ぐずぐすしな
いでさ」
このかよの言葉で、徳之助の決心は固まったらしい。
 細い体にへばりついていた着物をはぎ取ると、恐る恐るかよの体に手をのばした。
 「待ちな」
 「へいっ」
かよのきつい一言で、徳之助はすくみあがった。
 「まずはね、あたしがひとつひとつ教えてあげるよ。―――だからさ……」
かよは徳之助の手を取ると、柔らかな床に座らせた。
 「さ、若旦那。ここに寝ておくれ」
 「は、はぁ……」
徳之助はふんどしひとつの頼りなげな姿で床に横たわった。
 「まずはね、準備が必要なんだよ」
 「準備…」
 「そう。男と女にはいろいろと事情があってね。まずは準備が必要なのさ」
そう言うと、かよはゆっくりと徳之助のふんどしをほどいた。
 徳之助は、これから何が起こるのかという期待で、すでにいきり立っていた。
 「ゆっくりと教えてあげるからね……」


 かよの細い指は、徳之助のモノにゆっくりと触れた。








戻  る     次 へ





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送