三 の 座 敷



 いらっしゃいまし。
 ちとせ屋の主(あるじ)、ちとせでございます。
 三の座敷は『みつ』の座敷にございます。
 ごゆるりとお楽しみ下さいませ。



(一)



 「―――みつ、みつ……」
 「ん…。もう朝……。兄さま、みつ、まだ眠たいの……」
みつは甘えた声で、太一の裸の胸にすりよった。
 「もう朝だ。出仕せねばならぬ」
 「やん。みつ、兄さまと寝るの」
みつは太一の首にぎゅっとつかまると、足を太一の腰に絡めた。
 太一はぽっと小さく火のついた欲望をなんとか押さえ込むと、みつの足をほどいた。
 「待て待て。今日はここまでだ。また来るゆえ、今日は帰るぞ」
 「はぁい…」
みつはぷんとふくれたが、よろよろと立ち上がると太一の肩に着物を着せ掛けた。


 太一はとある大名の次男。
 親の決めた結婚まであと三月。それまではこのちとせ屋で、たびたび甘い夢を見るつ
もりでいた。
 しかし、この太一。少々変わった性癖の持ち主で、このみつの様に若い女にしか興味
が無かった。しかも兄と慕ってくれる女にだけ。
 太一は今年二十五歳になる。嫁選びにはずいぶん時間がかかったが、八千石の川上
様の一人娘をもらい、婿に入ることが決まっていた。
 川上様の娘は今年二十歳。太一には少々年増だった。
 みつはまだ十六になったばかり。つい先日顔見世があり、太一がほれ込んで通う様に
なったのだ。

 太一は初めての夜からみつに『兄さま』と呼ばせた。

 みつは何の疑いもなく太一を兄と呼び、きりりとした男前の太一に抱きついた。

 太一の両親も太一の性癖をうすうすは感じていた。しかしかなりの地位を持つ太一の
父はそれを隠し、川上家に婿として入れることを決めた。
 一方、太一の方としては、この性癖は覆い隠すべきもなかった。別に恥じてもいなかっ
た。ただ、同じ城内に勤める仲間たちはほとんど知らない。太一の父が方々に手を回し、
根本から情報を抹消していた。

 「―――兄さま、今度はいつ来てくれるの」
 「そうさな……。今晩は宿直(とのい)ゆえ、明日の夕刻になるかの」
 「じゃあみつは、今晩も明日の昼間も違うお客さんと寝なくちゃいけないね」
 「そんな悲しいことを言うな。わしだって辛い。だがみつはわしだけの物ではない」
 「みつは兄さまの物よ」
そう言うと、みつはつま先立ち太一の首にすがりついた。
 まだ育ちきらぬ乳房も細い腰も、全て太一の好みであった。
 小さな顔に少々垂れた大きな瞳。それがまた一段と愛らしい。
 桃色の頬はまだ幼さが残っている。
 「兄さま、みつを捨てちゃいやよ。みつは兄さまとずっと一緒にいるんだから…」
 「………」
 「兄さま、みつとずっと一緒よね」
まだあどけない顔を太一に向け、みつは大きな瞳に涙を浮かべた。
 「どうしてお返事してくれないの」
 「―――また来る」
太一は何も言えず、みつの腕を離すとそそくさと座敷を後にした。


 しかし、その顔は苦痛にゆがんでいた……。







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